2008年3月22日土曜日

MDNIYでのYOGA WEEK 2008

インドの首都のニューデリーに、インド中央政府保健省(Ministry of Health & Family Welfare)のAYUSH局直轄の『モラルジ・デサイ・国立ヨーガ研究所(Morarji Desai National Institute of Yoga)』があります。

この『モラルジ・デサイ・国立ヨーガ研究所』では、昨年から2・3月の時期に「YOGA WEEK (ヨーガ週間)」というプログラムの実施が始まりました。今年は2月25日(月)から29日(金)までの5日間でした。

Morarji Desai National Institute of Yoga (MDNIY)
(Department of AYUSH, Ministry of Health & Family Welfare, Govt. of India)
68, Ashok Road, Near Gole Dak Khana, New Delhi - 110 001
http://www.yogamdniy.com/

今年はこの「YOGA WEEK (ヨーガ週間)」の最後の2日間、2月28日・29日に、
「ヨーガの教育課程とプログラムの標準化
(Standardization of Yogic Curriculum and Programmes)」
をテーマにした全国会議(National Seminar)が持たれ、わたしたちもそれに参加しました。
 
歴史的な会議....

これは、非常に重要で、歴史的な会議でした。「ヨーガ」についても、インドが「本気」になった、という局面です。インドも「激動の時代」ですが、「ヨーガ」の分野も急展開しており、目が離せない局面です。

近年の、主にアメリカにおける「ヨーガ」の無責任な商業化傾向に歯止めをかけるために、インド中央政府の保健省主導で「ヨーガ」のスタンダード化と公的な認定制度が進められることになりました。

そのため、今回インドの主要な保守派の「ヨーガ」のインスティチュートの代表が一同に会して、初めて「国立研究所」で団結、具体的には、6月に「Indian Yoga Association (IYA)」、「インド・ヨーガ協会」を結成、「ヨーガ研究所」の審査と認定、及び「ヨーガ」の分野における自主規制機関として機能する。

また、社会的に「職業」として「ヨーガ」の認知を図るために「ヨーガ教師」の教育課程に統一カリキュラムを策定、将来的には「ヨーガ教師」の免許を登録制にすることを視野に入れる。

統一教育課程の内容は、ロナウラで1920年代から始まった「ヨーガ」の近代化の方向性を踏襲・発展させたもので、総合的て独立した「知識体系としてのヨーガ」の構築を志向したものです。

(今までもロナウラの「カイヴァリヤダーマ研究所」付属カレッジの「ディプロマ・コース(D.Y.Ed.)」修了が実質的に「職業資格」として「ヨーガ教師」の基準でした。)

また、医療分野で「ヨーガセラピー/ヨーガ療法」の臨床を行なう基準は、インドの「医師免許」と同レベルの水準である必要があり、今後開設される5年半の医科大学レベルの「ヨーガ療法医課程(B.Y.Th)」の修了が基礎資格になります。

背景の事情....

今回の動きの直接の背景には、アメリカの「ヴィクラム・チョードリー」の「ホット・ヨガ」と、インドの「スワーミー・ラームデーヴ」の数千人を集める巨大「ヨーガ」集会があります。

「ヴィクラム・チョードリー」はアメリカで「ヨーガ」の「パテント(専売特許)」を申請していたのですが、それが認可されたことに、ついに本家のインド側が「切れ」ました。

つまり、インド人が「ヨーガ」をする場合、パテント料をアメリカの「ヴィクラム・チョードリー」の会社に支払う???という、トンデモないことが起きつつあるのです。
  
すでに先行事例があって、「ターメリック(うこん)」の薬効がアメリカで「パテント」を取られている、インドを代表する「バスマティ米」もアメリカで「パテント」を取られている。

このまま無抵抗では、アメリカのルールによるパテント・ビジネスに伝承文化や伝統的知識までが喰い荒らされ、「インド文化」の根幹が侵されるという危機感があります。

「自国の研究室で新しく発見された知識や、開発された技術に特許権を認めるのは当然だろうが、他国の伝統文化に専売特許を当て嵌め利益の独占を狙うとは何ごとか!!」、というのが正論です。「おれたちは絶対そんな特許料はアメリカに払わない!!」と、会議中も大いに気勢が上げられました。

このアメリカの「パテント・ビジネス」の動きに対して、インド政府は「TKDL(Traditional Knowledge Digital Library)」、伝統的知識のデジタル図書館、をウエブサイトに創設して予防しようとしています。

つまり、「ヨーガ」や「アーユルヴェーダ」など、インドで発展・継承された文化資産でありながら、人類に普遍的な価値がある知識のデータを事典型式で収録するサイトを創成し、パテントによる独占を予防しようとするものです(この会議にこの政府プロジェクトの担当者も出席しました)。

さて、これは海外の動きですが、インド国内の背景としては、ハリドワールに拠点を置く「スワーミー・ラームデーヴ」の存在があります。

「スワーミー・ラームデーヴ」はここ数年で急速に「名前の売れた」人物で、テレビで毎日朝夕自分の「ヨーガ」番組を放映していますし、「病気直し」を売り物にした数千人単位の「ヨーガ・イベント」の興業を打って、毎月全国を巡業しています(高額の入場料を徴収します)。

「ラームデーブ」はインドで一気に「ヨーガ」を大衆化した人物ですが、彼自身出自がハッキリしない人物ですし、伝統的な「ヨーガ」文献に根拠のない指導内容や、「ヨーガでガンを治す」「エイズも治す」「病気は何でも治る」「白髪も黒くなる」といった大衆受けを狙った無責任な発言、偽アーユルヴェーダ薬製造販売、「ヨーガ・イベント」中に死人が出る、等々、多くの問題があります。
  
しかし、大衆から広範囲に支持を受けているし、政治家も彼の人気を利用しているため、一向に勢いは衰えません。最近海外にも進出して、あたかも彼が「ヨーガの権威」であるかのような振る舞いをしています(昨年日本にも行っています)。
 
「ラームデーヴ」は「ヨーガ興業」でかき集めた資金で設立したハリドワールの自分のセンターで、今後「10万人のヨーガ教師を養成する」「インドから病気を消滅させる」と豪語しています。
 
彼に対して、今まで真面目に、地道に「ヨーガ」に取り組んできた良識派・ 保守派勢力は、ほんとうにあたまにきています。彼は「共通の敵NO.1」なのです。

保健省も彼を医療政策全体の「秩序を乱すもの」と認識しています。インド政府としても、何らかの形で「ヨーガ」に「基準と規制」を設ける必要が来た段階、という局面です。

今後のインパクト....

インドで「ヨーガ」に対する公的な認知の方向性が明確になって行くことで、今後諸外国での「ヨーガ」のあり方や方向性にも健全な影響を与えて行くことが期待されます。

例えば、ヒンドゥー教の宗教家である「スワーミー」が外国で「ヨーガ」を教えるという問題や、外国の任意団体が任意のヨーガ教師養成コースを運営するという現象にも、見直しが必要になるでしょう。

日本にはすでに「インド政府公認」とか「認定」という「ヨーガ」の資格があるようですが、それは何かのまちがいです。インドの情報不足から来ている誤解と思われます。日本で行なわれる講習会やコースに出て、「インド政府公認」とか「認定」というのはあり得ないことです。
   
またアメリカ系の「ヨガ」の講習会やインストラクター養成コースの目的は、あくまでも「フィットネス・ビジネス」の範疇であり、それは「ヨーガ」の本質ではない、という認識が必要です。

今後、インド政府の主導で「ヨーガ」の資格のスタンダード化が進んで行く局面で、「ヨーガ」でインド留学することにも、新しい意味を持って来ることになるでしょう。

日本の問題は、「ヨーガ」の有資格者の不足です。お隣の韓国の場合、ここ10年間で「カイヴァリヤダーマ」の付属カレッジのディプロマ・コースの卒業生だけでも30名近くいます。今後、日本からもロナウラの「カイヴァリヤダーマ」に短期・長期留学される方が増えることが期待されます。

【参考情報】
      
インド中央政府保健省のAYUSH局

日本の厚生労働省に相当するのは「Ministry of Health & Family Welfare」です。
http://mohfw.nic.in/
日本語に直訳すると、「保健と家族福祉省」というようになりますが、ここではかんたんに「保健省」としておきます。

保健省の中にAYUSH局という部局があります。
Department of AYUSH
http://indianmedicine.nic.in/

この部局が厚生省に創設されたのは1995年3月です。当時は、「インド医学の体系とホメオパティー局Department of Indian Systems of Medicine and Homoeopathy (ISM&H)」 と呼ばれていました。2003年11月に名称が変更され、AYUSH局という名前になりました。
「AYUSH」と言うのは、
Ayurveda(アーユルヴェーダ)」
Yoga & Naturopathy(ヨーガ&自然療法)」
Unani(ユーナニー)」
Siddha(シッダ)」
Homeopathy(ホメオパティー)」
の頭文字から取られています。

AYUSH局の目的は、西洋近代医学以外の医療体系の普及による社会福祉・公衆衛生の向上を図ることです。そのための研究・教育の推進、教育課程のスタンダート化、医薬品の承認審査と品質管理、国民の意識向上への活動などがAYUSH局の所轄です。

これら医療体系は、通常他の国では「代替療法(Alternative Medicine)」や「補完療法(Complementary Medicine)」と呼ばれるものですが、インドでは国家が認知した正式な「医学」としてのステイタス(National Systems of Medicine in India)が与えられています。これらの「医学」を実践する基礎資格は、5年半の医学教育修了です。

このうち、「アーユルヴェーダ(Ayurveda)」「ユーナニー(Unani)」「シッダ(Siddha)」の3種はインドの伝統医学・伝承医学です。インドにリソースがあるものです。

「自然療法(Naturopathy)」は自然界との調和とバランスの回復を図ることで病気を治療する医療体系で、インドの伝統にもルーツがありますが、近代的な「自然療法」はドイツで始まった運動です。18世紀当時「ハイドロ・セラピー(水療法)」と呼ばれていたものがそのルーツにあり、「ヴィンセント・プリースニッツ(Vincent Priessnitz/1799-1851)」という人物が創始者です。

その後、治療体系としての「自然療法(ナチュロパティー)」という分野が確立し、その名称が広く用いられるようになったのは「ベネディクト・ラスト(Benedict Lust/1872ー1945)」という医師の活躍によります。

インドで「自然療法」を推進したのは近代インド建国の父である「マハートマ・ガンジー(Mahatma Gandhi/1869-1948)です。従って、インドの「自然療法」は「マハトマ・ガンディー」の「ガンディー思想(Gandhian Philosophy)」と切り離せないものです。

「ヨーガ」は本来医療の体系ではありませんが、医療への応用も期待される分野なので、インドでは「自然療法(naturopathy)」との組み合わせで推進されています。

「ホメオパティー(Homeopathy)」は約200年前にドイツの医師「サミュエル・ハネーマン(1755ー1843)」が体系付けた治療体系で、「似たようなものは似たようなものを治す(同症療法)」という原理に従うものです。
  
「ホメオパティー」はインドでは1947年の独立前から盛んに実践され、イギリスからの独立後も、インド政府が「ホメオパティー」を認知して研究・教育を推奨してきた結果、世界でもっとも「ホメオパティー」が普及している国になっています。

リサーチ・カウンシルと国立研究所

「統合医療」への流れは世界的なトレンドです。インドでも伝統的知識の復興と近代社会への統合、というのが大きな時代の流れであり、課題です。AYUSH局の中には、現在4つのリサーチ・カウンシル(Research Council)と6つの国立研究所(National Institute)が設立されています。
  
「Central Council for Research in .....」というのは、日本語に訳すと「研究中央審議会」「研究中央委員会」になるでしょう(日本の厚生労働省にある「医道審議会」「薬事・食品衛生審議会」などに相当する位置づけと思われます。)

・アーユルヴェーダ&シッダ・研究中央審議会
 Central Council for Research in Ayurveda & Siddha (CCRAS)
 www.ccras.nic.in
・ユーナニー医学・研究中央審議会
 Central Council for Research in Unani Medicine (CCRUM)
 www.ccrum.nic.in
・ホメオパティー・研究中央審議会
 Central Council for Research in Homoeopathy (CCRH)
 www.ccrhindia.org
・ヨーガ&自然療法・研究中央審議会
 Central Council for Research in Yoga & Naturopathy (CCRYN)
 www.ccryn.org

そして、6つの国立研究所(National Institute)があります(日本の厚生労働省にある「国立がんセンター」  「国立循環器病センター」「国立精神・神経センター」 などに相当する位置づけと思われます。)

・国立アーユルヴェーダ研究所(ラジャスターン州ジャイプール)
 National Institute of Ayurveda (NIA),Jaipur 
 www.nia.nic.in
・国立シッダ研究所(タミールナードゥー州チェンナイ)
 NATIONAL INSTITUTE OF SIDDHA (NIS), CHENNAI
 www.nischennai.org
・国立ユーナニー医学研究所(カルナータカ州バンガロール)
 National Institute Of Unani Medicine (NIUM)
 www.nium.in
・国立ホメオパティー研究所(西ベンガル州コルカタ)
 National Institute of Homoeopathy (NIH)
 www.nih.nic.in 
・国立自然療法研究所(マハーラーシュトラ州プネー)
 National Institute of Naturopathy (NIN)
 www.punenin.org
・モラルジ・デサイ・国立ヨーガ研究所(ニューデリー)
 Morajee Deseai National Institute of Yoga (MDNIY)
 www.yogamdniy.com

インド中央政府の保健省AYUSH局で、直接「ヨーガ」に関係しているのは、
・「ヨーガ&自然療法・研究中央審議会(CCRYN)」
・「モラルジ・デサイ・国立ヨーガ研究所 (MDNIY)」
の2つです。