2008年5月16日金曜日

ヨーガと自然療法(続き)

「ヨーガと自然療法」

どんなに優れていて、国民みんなに役立つものであっても、一般社会に正当に認知され、健全で永続的な社会貢献をして行くためには、政府による法的な保護と規制が必要です。


現在のインド中央政府厚生省の医療政策では、「ヨーガ」を病気の治療に応用する場合は、「自然療法(Naturopathy)」の範疇で取り扱われることが基本方針となっています。
         

自然療法は、医薬品や高度な医療技術を一切用いずに、患者さん個人の自己治癒力に依存して病気を治癒させる医療体系です。

そして、自己治癒力を発現させる手段のひとつとして、「ヨーガ」も自然療法の治療体系に統合されています。
    
また、自然療法では「自然に病気が消滅する」というアプローチを取りますので、病気を解消し健康を回復するためには、患者参加型の専門施設に中・長期間滞在し、専門医の指導を受けながら自己治療活動に専念することが前提条件となります。

    
インドでは自然療法のアシュラムや専門病院が多数存在しています。また、自然療法医(Bachelor Degree of Naturopathy & Yogic Science/BNYS)が5年半の医学教育のレベルで養成されています。

「ヨーガ・セラピー/療法」は単独では成立しない、というのはインドの「ヨーガ」のプロの間での「常識」です。その理由はインドの現場を見れば良く分ります。

  
プネー郊外の「二サルゴプチャール・アシュラム」

今回はインドの自然療法の専門施設の事例として、プネー郊外のウルリカンチャンにある『二サルゴプチャール・アシュラム(Nisargopuchar Ashram)』を取り上げて見ます。
http://www.naturecureashram.com/


プネーから東に30キロの距離のウルリカンチャンという町にある『二サルゴプチャール・アシュラム』は、近代インド建国の父であり、またインドにおける近代自然療法の父でもある「マハートマ・ガンディー(1869−1948)」によって1946年4月に設立された、インドで初めての自然療法専門の滞在型医療施設です。 

わたしたちは1993年にこの『二サルゴプチャール・アシュラム』に2ヶ月間滞在し、自然療法の研修を受けたことがあります。

           
現在、年間6000人が自然療法の臨床指導を受けるためにアシュラムを訪れています。アシュラムのキャンパスは150ー200人程度収容可能です。


滞在費は非常にリーズナブルで、ふつうの庶民でもアシュラムでの療養が可能なレベルです。
     
一般に、インドではアーユルヴェーダは「高額医療」で、それなりの裕福層でないとアーユルヴェーダの専門的な「パンチャ・カルマ療法」は受けられませんが、自然療法はコストが掛らない医療なのです。
                        

自然療法の実践者であり臨床家でもあり、健康についての独自の思想とこだわりを持っていた、というのは「マハートマ・ガンディー」という偉大な人物のもうひとつの側面です。
 
農村部にコストの掛からない医療として自然療法を普及させる、というのは「マハートマ・ガンディー」の独立インド建国のビジョンのひとつでした(そのビジョンは独立後のインド共和国の医療政策に継承されています)。

   
1946年3月にプネーを訪れた「マハートマ・ガンディー」は、プネーから30キロ離れたウルリカンチャン村を選び、そこにパイロット・プロジェクトとして自然療法アシュラムを設立することに決めました。

「マハートマ・ガンディー」はウルリカンチャンに8日間滞在、近郊の村々から集まった数百名の患者に、自ら自然療法の臨床の指導をします。そして、その後その自然療法アシュラムの運営を、当時の弟子のひとりであった若き「マニバイ・デサイ」氏に託します。
         

「マニバイ・デサイ」氏

「マハートマ・ガンディー」の薫陶を受け、生涯を「農村の生活向上」に捧げる決意をしていた「マニバイ・デサイ(Manibhai Desai/1920−1993)」氏は、後に このアシュラムから1967年に『BAIF(Bharat Agricultural Industry Foundation/インド農産業財団)』という農村開発系のNGO団体を発足させます。
http://www.baif.org.in/aspx_pages/index.asp


『BAIF』はインドのみならず、世界的に見ても非常に成功しているNGO団体のひとつです。マハーラーシュトラ州を中心に西インド全域で活動しています。


『BAIF』はガンディー思想に基づきながらも積極的に科学技術も導入、主に最貧民層の農民を対象に、現地で利用可能な農業資源を活用した生産性・自立性の向上や、現金収入を得る商品作物の栽培指導によって、農村部での生活レベルの向上を図る活動を行なっています。

   
同時に、農村部の公衆衛生面の向上、自然療法に基づいた予防医学の指導、自然療法のクリニックの設立などの医療活動も行なわれています。

     
それらの貢献によって、『BAIF』の創立者の「マニバイ・デサイ」氏は1982年に「アジアのノーベル賞」と言われている「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞しています。 
   

「マグサイサイ賞」はフィリッピンの元大統領「ラモン・マグサイサイ」氏を記念して1958年に設立された「ラモン・マグサイサイ賞財団」が、人種・信条・性別・国籍を問わず、それぞれの分野で傑出した業績を達成したり、人々の生活向上に絶大な貢献のあった人物や団体に毎年授与される賞です。
http://www.rmaf.org.ph/

  
アジアの国々では「ラモン・マグサイサイ賞」の受賞者は大きな尊敬を集めています。わたしたちの『タイ・ヨーガ研究所』が所属しているバンコクのMCB財団の創立者の「プラヴェーシュ・ヴァシ」博士(医師)も、マヒドン大学医学部教授時代に、タイの農村部の公衆衛生・医療を向上させた貢献によって、「ラモン・マグサイサイ賞(1981年)」を受賞されています。
           
現ディレクターの「ラヴィンドラ・二サル」医師(Dr.R.V.Nisal)

 
現在の『二サルゴプチャール・アシュラム』のディレクターは「ラヴィンドラ・二サル(Dr.R.V.Nisal/1950−)」医師です。
http://www.naturecureashram.com/HTML/DrNisal.HTM


プネー出身で、西洋医学とアーユルヴェーダの両方の医師免許を持ちながら、現在は自然療法の臨床医として『二サルゴプチャール・アシュラム』のディレクターを勤めています。

当然ガンディー主義者で、プネー大学医学部卒業後『BAIF』に参加、奥様も『BAIF』のスタッフであるソシアル・ワーカーです。
       
自然療法では、「もし、患者さんの症状が改善・完治したら、それは患者さん本人の自然治癒力が働いた結果で別に医師の功績ではない」、また、患者さんの症状が改善しない場合も「医師側に責任はない」という、完全に患者中心のアプローチを取ります。
 

自然療法医の仕事は、自然治癒力が働くような環境と条件作りを補助することです。医師は患者さんに過剰な干渉はしません。患者さんの側に「自分の病気は自分で治す」という態度が要請されます。

その為、自然療法で治癒した場合、病気が消滅するだけでなく、自分自身への自信の回復、セルフ・コントロールの価値の認識、健康的な生活を送るための自己責任の確立、といった、人生に肯定的な「副作用」があります。

しかし、自然療法医は医師自身が自然療法が理想とする価値観やライフ・スタイルを実践している「お手本」であることが前提とされるため、意外にむつかしい職業です。
    
医師自身の「人格」が伴わないと患者さんへの説得力が生まれないため、ある意味で、他の医学の医師よりたいへんです。その分、経験を積んだベテランの自然療法医のモラルは高く、インドでは非常に尊敬されます。

    
二サル医師は32年に及ぶ臨床経験があり、今は自然療法医として円熟期です。非常に円満で包容力のある人物で、自然と尊敬を集めるようなオーラがあります。インドの伝統的な価値観やライフスタイルと近代的な合理性の調和が良く体現されている「人格」の例、と思われます。
          
昨年2007年1月と今年2008年5月のタイ組の「スタディ・ツアー」では『二サルゴプチャール・アシュラム』で3日間のセミナーが組まれましたが、例外無く、タイ組のメンバーは二サル医師のファンになります。

          
また、2005年にシーナカリン・ヴィロード大学付属中高校の教員であるうちのタイのメンバーが、夏休みを利用してアシュラムに6週間滞在したのですが、中年に差し掛かった自分の健康問題を完全に解消したばかりでなく、見違えるようにフレッシュに若返ってバンコクに帰って来て、皆を驚かせたことがあります。
    
 (講義中のディレクターの二サル医師)

『二サルゴプチャール・アシュラム』のキャンパス内には、そこに滞在するだけで体内の「浄化効果」や「自然治癒力」が発動するような「磁場」があるように思えます。

『二サルゴプチャール・アシュラム』は、インドで、実にインドらしい上質なインド体験が出来る場所のひとつであることは、間違いないでしょう。
       
また、インドで「ヨーガ」を学ぶに場合は、現在自然療法は必修科目になっていますので、「ヨーガ」に興味のあるひと、「ヨーガ」に関わっているひとは、ウルリカンチャンを訪ねてみることが有益に思われます。
           
以下は、『二サルゴプチャール・アシュラム』の公式パンフレットの内容です。
           

1)自然療法:健康的な生活の技術
   
人間は宇宙の縮図です。自己を宇宙の中に視覚化し、かつ、宇宙を自己の中に視覚化出来ることが、人間の最も進化した意識の状態と考えられます。
   
その意識の状態では、自己は普遍的な精神原理である「永遠、知識、最高の幸福(sat/cit/ananda)」の三位一体と同一視されるでしょう。
      
からだとこころの健康に留意することは、人類の宗教活動の基盤も構成しています。人間はからだとこころと精神の集合体であり、完全な健康とは、身体的・心理的・精神的な健全さに到達することを意味します。

わたしたちは「自然の法則」に従うことで、からだの健康を得ます。また、正しい行いの規則に従うことで、強いこころが養成されます。
   
そして、哲学的な生活態度を養い、瞑想とヨーガを実習することで、精神的な健康に到達します。
    
「自然の法則」を観照することは、自分の人生全体に大きな変容をもたらす経験です。その経験は人類に何千年間もの間集積されて来ているものです。人類の進化のプロセス自体が、自然療法の全体論的なアプローチの有効性を証明している、と言えるでしょう。
   
2)二サルゴプチャール・アシュラム
    
近代インド建国の父である「マハートマ・ガンジー」は自然療法の哲学の熱烈な信奉者であり、臨床家でもありました。

ガンディー氏は南アフリカに滞在中に、自然療法の驚くべき効果を体験し、1946年3月にウルリカンチャンに『二サルゴプチャール・アシュラム』を設立したのです。
    
ガンディー氏は、個人的な衛生や、家庭内や公共の場の衛生状態が厳密に守られて、食事や運動とこころの率直さに十分な注意が払われれば、われわれが病気になるのは不可能である、と信じていました。
      
ガンディー思想に従う精神的指導者の「バルコバ・バーヴェ」氏や、ガンディー思想の実践者で社会改革者であった「マニバイ・デサイ」氏の指導のもとで、アシュラムは自然療法の普及と地域保健や公衆衛生の向上に顕著な貢献を成し遂げて来ました。
   
現在、アシュラムは献身的な自然療法医のチームにより専門的に運営されています。アシュラムの目的は、特に農村地域での予防医学的な自然療法を促進することと、一般の人々が健全な生活を送るための教育指導を提供することです。
               
3)自然療法の特性
  
現在世界には多くの種類の医療・診断システムがあります。それぞれの療法はそれぞれが対象とする病気の治療に妥当性があります。
  
自然療法はからだとこころと精神の間に調和がない場合には、健康的な生活を享受できない、と信じています。自然療法は人間の弱点と病気の根本的な原因は「自然の法則」との不統合によるもの、と考えています。
    
病気とは、からだが体内毒素を体外に排出しようとする試みに他なりません。自ら規律があり、偏りの無い、倫理的な家庭・社会生活を送ることこそが人間の自然な営みであり、そのまま病気の予防と治療になるものなのです。
           
4)ヨーガの重要性
 
ヨーガの哲学を理解することは、インドの自然療法の重要な側面です。ヨーガは特定の宗教に制約されていません。ヨーガは瞑想と思索を追求する普遍的な活動です。
   
ヨーガによる精神的な探求はアーサナやメディテーション、オーム・カーラの読誦などの組み合わせで構成され、限りない至福の領域へと導くものです。
       
個人が至福な経験をするときには、カーストや宗教による違いや、個人的な願望充足への内面の渇望が消失しています。
    
メディテーションには安定した姿勢が必要です。それはアーサナとして知られているものです。
   
アシュラムでは年齢層によるニーズによって、別々のヨーガのセッションが用意されています。また、高血圧、冠状動脈性心臓病、関節炎、腰痛、消化器系・呼吸器系の疾患を持つ人々を対象とした特別なヨーガのセッションも組まれています。 
    
5)宿泊施設
 
アシュラム内の宿泊施設には4つのタイプがあります。一般的なドミトリーと、シングル/ダブルの部屋とコテッジです。
           
滞在費は治療代を含めて1日75ルピーから500ルピーの範囲です(マッサージと食費は別です)。 

医師の許可がない限り、一般客や付添人のアシュラム内の滞在は許可されていません。マットレス、シーツ、毛布、枕、蚊帳はアシュラムから提供されます。
      
6)自然療法で治療される疾患
    
他の医療体系では限界がある慢性の機能的疾患の治癒を、自然療法は約束します。
   
リューマチ、心身症、喘息、消化不良、高血圧、冠状動脈性心臓病、糖尿病、アトピー性皮膚炎・疥癬のような皮膚病、肥満、および様々な婦人科系の疾患は、シンプルな手順と食事コントロールで非常に良く管理されます。
     
7)自然療法の対象外
  
若年性インシュリン依存糖尿病、甲状腺機能昂進症・低下症、慢性腎不全、運動ニューロン疾患、筋萎縮症、多発性硬化症、貧血症、麻痺、パーキンソン病、尋常性天疱瘡、肝硬変、遺伝的・先天的な不具、精神分裂症、深刻な鬱病、進行性のガン等。
     
以上の疾患の場合でも、家庭で実践出来る適切で自然な食事法、ヨーガやエクササイズの指導をアシュラムで受けることが出来ます。
   
また、自然療法のアシュラムでは感染性の結核やハンセン氏病を扱うことは出来ません。
      
8)場所/ウルリカンチャンへの行き方

ウルリカンチャンはプネー・ソラプール国道9号線に位置する町で、プネーの東30キロに位置しています。
  
ネルー・スタジアム(スワラゲート)バス・ターミナルから40分毎に午前6時から午後9時30分まで市営バスが運航しています。
   
列車はプネー駅からウルリカンチャン駅に向う便は、
04.15、07.10、08.10、09.15、13.20、16.40、7.35、18.40、20.05、22.45、23.10。

ウルリカンチャン駅からプネー駅に向う便は、
03.20、04.30、05.40、07.05、07.25、08.40、10.10、13.10、16.35、18.00、9.15。
  
アシュラムは駅とバス・スタンドからの歩ける距離に位置しています。

プネー空港にはムンバイ、ニューデリー、アーメダバード、ナグプール、バンガロール、ハイデラバード、およびチェンナイなどのインドの主要都市との連絡便が就航しています。

また高速バスがムンバイ空港・プネー駅間で運行されています。高速道路でムンバイ・プネー間は3時間程度で結ばれています。
         
9)アシュラムでの規則
  
1.患者は、アシュラムの尊厳を維持するための規則を順守し、運営側に協力的であること、また、アシュラム内ではインドの文化的常識と医師からの指導に従って行動することが期待されています。
     
2.アシュラム内では、喫煙、紅茶、コーヒー、アルコール等の依存性のある嗜好品は許可されていません。

3.アシュラム内での娯楽としては、ラジオやテープは部屋で低ボリュームで隣人に迷惑を掛けない範囲で許されています。また、公共のテレビが教育的な目的とニュース視聴用に講義ホールに設置されています。

4.患者は自分の貴重品とお金の管理に責任を持って下さい。

5.アシュラム内にはペットの持ち込みは禁止です。

6.患者は医師によって与えられた指示に従うことが期待されています。任意に食事を変えること、またプネーへの頻繁な外出などは全体の治療計画を乱します。
 
7.自宅に帰宅するには、事前に医師への通知が必要です。
 
8.午後1時から2時までは沈黙を守る時間です。同様に、午後9時30分から翌朝午前5時までも沈黙の時間です。

9.ヨーガ・セッションは午前5時15分から6時15分が女性と高齢者対象、6時15分から7時15分が若年者対象、午前6時から心臓・呼吸器系の疾患がある人のためのセッションがあります。また、講義と夕べの祈りへの参加が不可欠です。
  
10.自然療法の効果を経験するには2週間から3週間の滞在が必要です。
     
10)ガンジー主義の考え

「私は、個人的、家庭的、公共的な衛生状態が厳密に守られて、食事と運動について十分な注意が払われるなら、病気や疾患が起こるはずがない、と主張したい。内面と外面の清浄さのあるところでは、病気は不可能になる。」
(マハートマ・ガンディー)

11)アシュラムの日課

 5:00     起床
 5:15 − 6:15 ヨーガ 1stセッション(プレラナ・マンディール)
 6:15 − 7:15 ヨーガ 2ndセッション(プレラナ・マンディール)
 6:00 − 7:00 ヨーガ 2ndセッション(スムルティ・マンディール)
 7:30 − 8:00 肥満のためのヨーガ
 7:00 − 8:30 ハーブ・ティーとジュース
 8:30 − 9:00 日光浴、泥療法
 9:00 − 9:30 アムラ、ハルディ、ウィートグラス草のジュース
 9:00 −11:00 水療法、磁石療法
10:30 −12:30 昼食
12:30 − 1:00 額の上の泥パック
 1:00 − 2:00 沈黙の時間
 2:15 − 2:45 プラーナーヤーマ 特定のヨーガ・セッション
 2:15 − 4:30 指圧療法/ニューロ・セラピー(Neurotherapy)
 3:00 − 4:15 ハーブ・ティー/ジュース/図書館
 4:15 − 5:00 自然療法、ヨーガ、ホリスティック・ヘルスに関する講義
 5:00 − 5:15 新来者のための歓迎ミーティング
 5:30 − 6:30 夕食
 6:30 − 7:00 夕方の散歩/自由時間
 7:15 − 8:00 夕べの祈り
 8:00 − 9:00 自習(Swadhyaya)/思索
 9:30 以降  沈黙


2008年5月1日木曜日

ヨーガと自然療法

「ヨーガをテーマにしたインド研究」はわたしたちのライフワークです。

「インド」もほんとうに「面白い」時代に入りました。あいかわらず、いろいろたいへんな面も多いのですが、総体的に見れば、ほんとうに良い時代が来たなと、「インド」に関わって来た者としては感慨深いものがあります。
   
インドの伝承文化である「ヨーガ」も急速な時代の変化の波に揉まれて、新たな局面に入っている、と言えるでしょう。


「ヨーガ」は、一見入り口が広く、手軽で、だれにでもアプローチが出来るように見えるのですが、一方では、「ヨーガに深く関われば関わるほど、不幸せになる」という、困った法則があります....
    
これは、実は、「よく知らない相手と不用意に深い関係になると、あとでふしあわせになる」というのと同じパターンです。

 
インドでも「ヨーガ」が一般社会に出て来たのが1920年代、そして、「ヨーガ」がインドの外の世界にも広まり始めたのは1960年代、わずか50年未満です。
      
「ヨーガ」というのは、「まだまだよく知らない相手」なのだ、という認識は外国人であるわたしたちには大切なことだと思います。

          
「ヨーガ」と付き合うにしても、相手の目の前に見えている部分だけで「片思い」的に判断するのは少々キケンです。
   
むしろ、「ヨーガ」と長く付き合って行っても、どうすれば、後で「ふしあわせにならないか」、という、現実的で予防線的なガイドラインが必要に思います。それが、案外「ヨーガ」で成功する近道かも知れませんね.....

   
それには、まず、「ヨーガ」の本家本元である「インド」の知識や情報を増やして行くことが大切ですし、公平な視点を持つ専門家の分析や解説を参考にすることが有益でしょう。


ところで、「ヨーガ・セラピー/療法」という新しい分野があります。「ヨーガ」を健康の維持・増進の手段として使うだけでなく、すでに医学的に病気と診断されている人が、「ヨーガ」を応用して自分の病気の症状改善と健康状態への回復を図ろうとするものです。

「ヨーガで自分の病気を治す」「ヨーガでひとの病気を治す」....これは、多くの人が「ヨーガ」への「片思い」に陥る典型的なパターンでしょう。

しかし、これは出口の見えない恋愛関係に近いものがあります。「ヨーガ」は本来医療の体系でもないし、病気の治療法でもない、という現実が見えなくなるのです。
   
現在のインドの医療政策では、「ヨーガ」を病気の治療に応用する場合は、「自然療法(Naturopathy)」の範疇で取り扱われています。自然療法の治療理論では「自然に病気を消滅させる」というアプローチを取りますが、「ヨーガ」も同じです。

      
しかし、自然療法や「ヨーガ」で「自然に病気が消滅する」条件が整うには、専門知識を持った専門家の指導と患者参加型の専門施設というインフラが必要になります。
    
インドでは専門の自然療法医が5年半の医学教育のレベルで養成されていますし、自然療法の専門病院や専門アシュラムが存在するので、「自然療法と
ヨーガ」による医療が成立しています。
        
ですから、「ヨーガ」の医療への応用を考える場合には、まず、インドの「自然療法」の背景を知って置くことが必要になります。

1)インド中央政府保健省のAYUSH局CCRYN
   
どんなに優れていて、国民みんなに役立つものであっても、一般社会に正当に認知され、健全で永続的な社会貢献をして行くためには、政府による法的な保護と規制が必要です。

   
近年、世界的なトレンドとして、近代医学と伝統・伝承医学を統合して、両方のメリットを国民に提供しようとする統合医療へと流れと、そのために必要な法制化が進んでいますが、インドでは中央政府の保健省のAYUSH局という部局がその役割を担っています。
 
インドの医療政策における「ヨーガと自然療法」の振興も、このAYUSH局の管轄です。
  
インド中央政府保健省

Ministry of Health & Family Welfare, Government of India.
http://mohfw.nic.in/
 
保健省AYUSH局(アユーシュ局)
Department of AYUSH
http://indianmedicine.nic.in/
         
「AYUSH」と言うのは、「Ayurveda(アーユルヴェーダ)」、「Yoga & Naturopathy(ヨーガ&自然療法)」、「Unani(ユーナニー)」、「Siddha(シッダ)」、「Homeopathy(ホメオパティー)」の頭文字から取られています。

 
このAYUSH局の所轄は、西洋近代医学以外の医療体系の普及による社会福祉・公衆衛生の向上と、そのための研究・教育の推進、教育課程のスタンダート化、医薬品の承認審査と品質管理、国民の意識向上への活動などです。
   
AYUSH局には現在4つの研究中央審議会(Central Council for Research)と6つの国立研究所(National Institute)があります。
   

・アーユルヴェーダ&シッダ・研究中央審議会
 Central Council for Research in Ayurveda & Siddha (CCRAS)
 www.ccras.nic.in
・ユーナニー医学・研究中央審議会
 Central Council for Research in Unani Medicine (CCRUM)
 www.ccrum.nic.in
・ホメオパティー・研究中央審議会

 Central Council for Research in Homoeopathy (CCRH)
 www.ccrhindia.org
・ヨーガ&自然療法・研究中央審議会
 Central Council for Research in Yoga & Naturopathy (CCRYN)
 www.ccryn.org


・国立アーユルヴェーダ研究所(ラジャスターン州ジャイプール)
 National Institute of Ayurveda (NIA),Jaipur 
 www.nia.nic.in
・国立シッダ研究所(タミールナードゥー州チェンナイ)
 National Institute of Siddha (NIS), CHENNAI
 www.nischennai.org
・国立ユーナニー医学研究所(カルナータカ州バンガロール)

 National Institute Of Unani Medicine (NIUM)
 www.nium.in
・国立ホメオパティー研究所(西ベンガル州コルカタ)
 National Institute of Homoeopathy (NIH)
 www.nih.nic.in 
・国立自然療法研究所(マハーラーシュトラ州プネー)
 National Institute of Naturopathy (NIN)
 www.punenin.org
・モラルジ・デサイ・国立ヨーガ研究所(ニューデリー)

 Morajee Deseai National Institute of Yoga (MDNIY)
 www.yogamdniy.com

AYUSH局で直接「ヨーガ」に関係しているのは、そのうちの
・「ヨーガ&自然療法・研究中央審議会(CCRYN)」
・「モラルジ・デサイ・国立ヨーガ研究所 (MDNIY)」
の2です。


2)「CCRYN」について

『ヨーガ&自然療法・研究中央審議会(CCRYN)』      
Central Council for Research in Yoga & Naturopathy
61-65, Institutional Area, Janakpuri, New Delhi-58 (India)
Website : www.ccryn.org   


インドで政策レベルでの「ヨーガと自然療法」の研究・開発体制の整備は1969年に、保健省内に自立的組織として、『インド医学とホメオパティ(Homeopathy)研究中央審議会(CCRIMH/ Central Council for Research in Indian Medicine and Homoeopathy)』が設立されたことに始まります。
    
「CCRIMH」はインド伝統医学とホメオパティによって国民の福利厚生を向上させる目的で、インド政府によって設立された初めての組織であり、1978年まで存在します。

 
この期間、「CCRIMH」は「アーユルヴェーダ」、「シッダ」、「ユーナニー」、及び「ヨーガ」の研究開発を担当し、自然療法は保健省の直接の管轄下にありました。

1978年3月に「CCRIMH」は解消され、新たに4つの独立した「研究中央審議会(Central Council for Research)」が設立されます。

その1つとして『ヨーガ&自然療法・研究中央審議会(CCRYN)』が成立、「ヨーガ&自然療法」を独自の理論と方法論を持つ医療体系として総合的に発展させて行くための活動をしています。
   

3)自然療法


それでは、『CCRYN』発行の資料に基づいて、スタンダードな「自然療法」の理論と臨床について概観してみたいと思います。


1.概論

1-1.自然療法とは

まず、『CCRYN』では、
 「自然療法は、確固とした哲学に基づいた健康な生活を送るための技術とサイエンスであり、ドラッグレス(医薬品を用いない)の治療体系であり、それ自身の健康と病気のコンセプト、及び治療原理を持っている」
と定義されています。

具体的には、自然療法では、手の込んだ医療技術を用いずに、むしろ原始的な手法で病気を回復させようとする理論です。その背景には「自然の法則」への深い洞察と信頼に基づいた「哲学」があります。

自然療法では病気治療のための薬草や医薬品は一切用いません。食事療法や絶食療法が治療法の主力になります。

ちなみに、インドの伝承医学である「アーユルヴェーダ」では、薬草や鉱物から作られた医薬品を多量に使用しますし、洗練された治療技術を駆使します。食事療法は「アーユルヴェーダ」でも主力ですが、絶食療法には「アーユルヴェーダ」は反対します。

1-2.自然療法の歴史

『CCRYN』の公式見解では、自然療法の歴史は「インドの古代にまで遡る」という見方が取られています。

 「自然療法は非常に古いサイエンスである。われわれのヴェーダと他の 古典テキストに多くの参照を見つけることができる。」

つまり、自然療法が立脚している「病因物質の理論や生命エネルギーのコンセプト」などは古代インドの宗教・哲学文献である「ヴェーダ」の中にも見られることから、自然療法的な病気治療の手法は古代のインドでも実践されていた、という立場です。

近代的な「自然療法」は19世紀にドイツで始まった運動で、それがインドにも波及して来たのですが、自然療法は自然界との調和とバランスの回復を図ることで病気を治療する方法論ですから、人類に普遍的な考え方と言えるものです。
   
ですから、『CCRYN』としては、自然療法は近代に西洋から輸入された新しいものではなく、インドの伝統にも自然療法のルーツがある古いもの、とされています。
  
ちなみに、AYUSH局には「ホメオパティー(Homoeopathy)」を振興する『ホメオパティー・研究中央審議会(CCRH)』や『国立ホメオパティー研究所(NIH)』もありますが、「ホメオパティー」は約200年前にドイツで始まった治療体系で、完全に西洋から輸入されたものです。

1-3.自然療法の特性
   
さて、他の治療体系と自然療法の基本的な相違点については、「自然療法の理論と臨床は全体論的な見地に基づいている」ことが強調されます。
  
一般に、近代医学に代表される治療体系は症状特定的で、それぞれの病気には特定の原因があり、その病気を治療するための特定の治療法がある、というアプローチが取られます。

しかし、自然療法ではむしろ、病気は病気になる人間側に主な原因があり、病気を引き起こした要因を全体的に考慮する、というアプローチを取ります。

具体的には、身体の正常な機能を妨げ、病因物質の蓄積しやすい病的な状態に導く「不自然な生活習慣、偏った考え方、不規則な睡眠習慣、不十分な休息、過度の性的活動」などの要因、そして患者が置かれている環境要因が考慮されます。
 
そして治療に関しては、病気を起こした患者側にある要因を全体的に是正して行くことが強調され、身体が自然に病気から回復できる条件作りが図られます。
  
そのために、自然療法医の役割は、安全な範囲で自然力を制御することで、病気を克服しようとする自然の努力を補助する自然的手法を処方することです。

1-4.自然療法の復興

インドでの自然療法の復興は、1894年に「ルイス・キューネ(Lewis Kuhne)」の著作『新しい治療の科学(New Science of Healing)』が翻訳されたことで始まった、とされています。

最初ティルグ語(中央インドのアーンドラ・プラデーシュ州の言語)の翻訳が刊行され、その後、1904年にヒンディー語(北インドの言語)とウルドゥー語(インドのイスラム教徒の言語)に翻訳されました。

この本の翻訳が西洋で始まった近代的自然療法運動がインドにも伝搬することに貢献した、と記録されています。

1-5.マハートマ・ガンディーの貢献

インドの自然療法の発展に決定的な役割を果たしたのは、近代インド建国の父である「マハートマ・ガンディー(Mahatma Gandhi/1869-1948)」です。

「マハートマ・ガンディー」はイギリス留学時代に「アドルフ・ジャスト(Adolf Just)」著の『自然へ還れ(Return to Nature)』という本に深く影響され、自然療法の信奉者になりました。

「マハートマ・ガンディー」は自分自身や回りの親族、彼の設立したアシュラムのメンバーにも自然療法の実践を推奨しただけでなく、彼の発行していた新聞『ハリジャン(Harijan)』の紙上に自然療法に関する記事をしばしば寄稿し、一般大衆への普及にも務めます。

そうして、自然療法は非暴力・自主独立・自助努力・自然派のシンプルライフなどを柱とする「ガンディー思想」と不可分となります。

また、「マハートマ・ガンディー」の影響のため、当時の多くの政治的リーダーが自然療法による健康促進運動に参加しました。著名な人物としては、後に首相になった「モラルジ・デサイ」氏、後にインド大統領になった「V.V.ギリ」氏、ガーンディ主義による社会改革者「ヴィノバ・バーヴェ」氏などが特筆されます。

1934年から44年当時、「マハートマ・ガーンディー」がプネーに滞在するときは、当時プネーにあった「ディンショウー・メータ」医師の自然療法クリニックに滞在したのですが、その後、そのクリニックのあった場所に1986年に「国立自然療法研究所(NIN)」が設立されています。
  
National Institute of Naturopathy (NIN)
www.punenin.org
Bapu Bhawan、Tadiwala Road,
Pune 411001, Maharashtra
   
また、「マハートマ・ガンディー」はプネーから40キロ離れたウルリカンチャンという村に、インドで初めての自然療法による患者滞在型の医療施設『二サルゴプチャール・アシュラム(Nisargopuchar Ashram)』を設立しました。

Nisargopchar Gramsudhar Trust
http://www.naturecureashram.com/
Uruli Kancan - 412202, Dist. Pune, Maharashtra (India)

プネーの「国立自然療法研究所(NIN)」やウルリカンチャンの『二サルゴプチャール・アシュラム』には複数の自然療法医が勤務して臨床指導に当っています。毎日の「ヨーガ・クラス」も治療活動の一環です。


1-6.自然療法の現在

現在、インドには11の自然療法の医科大学が存在し、5年半の「ヨーガ&自然療法」の学士号課程で自然療法医が養成されています(Degree of Bachelor of Naturopathy & Yogic Sciences /BNYS)。「BNYS」の卒業生は自然療法医として、「医師」として診断・臨床をする資格が国家から認められています。

それぞれの自然療法の医科大学の入学定員は25名から60名で、インドでは毎年400名程度の自然療法医が養成されていることになります。実際には、自然療法の医科大学を卒業後も、ベテランの自然療法医の指導のもとで、何年もの「修行」が必要です。

また、自然療法医は医師自身が自然療法が理想とする価値観やライフ・スタイルを実践しているロール・モデルであることが要求されるため、日常生活でも厳密なダイエットを守り、また定期的に長期間の絶食療法を自分に課します。

自然療法は、医師自身の「人格」が伴わないと患者さんへの説得力が生まれないため、以外にむつかしい職業です。それだけに、経験を積んだベテランの自然療法医のモラルは高く、インドでは非常に尊敬されています。

2.自然療法の実際

次に、『CCRYN』発行の資料による自然療法の実際について見てみましょう。
 
2-1.自然療法の主要原理
  
次のポイントが、自然療法の主要原理として挙げられています。
   
1)すべての病気において、その原因と治療法はひとつである。外傷性及び環境要因から引き起こされる疾患を除いて、すべての病気の原因は同一である。すなわち、体内への病因物質の蓄積が病気の原因であり、病因物質の体内からの除去が治療法である。

2)病気の第1の原因はバクテリアでない。バクテリアとビールスは体内に病因物質が蓄積され、それらの成長と繁殖に好都合な状況が体内に確立されるとき、身体に進入して生き残る。従って、病気の基本的要因は病因物質であり、バクテリアやウイルスは2次的要因である。
  
3)急性疾患は敵ではなく、私たちの友人である。慢性病は急性疾患への間違った対処と抑圧の結果である。
 
4)自然は最も偉大な医師である。人体はそれ自身が病気を予防し、病気になった場合には健康を回復する能力を持つ。

5)自然療法では患者が治療される。病気が治療されるのではない。

6)自然療法では診断法が容易に可能である。診断過程を大げさに見せかける必要はないし、治療を始める前の診断に長い時間を費やす必要もない。
 
7)慢性疾患に苦しむ患者が比較的短期間で自然療法での治療に成功する。

8)自然療法によって抑圧されていた病気が治療される。

9)自然療法は身体的、心理的、社会(倫理)的、精神的な4つの側面をすべて考慮に入れる。

10)自然療法は特定の症状に治療を施すのではなく、人体を全体として治療する。
  
11)自然療法は薬を使用しない。自然療法では食物が薬である。

12)マハートマ・ガンディーによると、「ラーマ・ナーマ」が最良の治療法である。自分自身の信仰に従って祈りをすることは、治療の重要な部分である。

3.自然療法のさまざまな手法

自然療法の目的は、健康を損なうような生活習慣を改めて、健康的で病気を作らないようなライフ・スタイルを確立する具体的な教示をすることです。
       
そのことで、単に病気から自由になるのを手伝うだけではなく、 積極的で力強い健康を獲得することを支援します。自然療法のさまざまな手法はこの目的の追求に役立つものです。
    
インド哲学の考え方では自然界は5元素(パンチャ・マハブータ)、つまり、風、水、土、火、および虚空で構成されていますが、自然界の一部である人体もこの5元素で構成されてます。

人体を構成している5元素が不均衡になると病気を引き起こします。自然療法による病気への対処は、この5元素を用いた方法を人体に適応して、人体の持つ顕著な回復力を利用することにあります。

自然療法で用いられる一般的な治療法と診断法は、次のようなものです。 

3-1.食事療法
  
自然療法では薬草を含めて医薬品は一切用いません。その代り、食物が「薬」と見なされます。食物には単にからだに必要な栄養分やカロリーを摂取するもの以上の意味があると見なされます。
  
自然療法では食物は直接自然から採られたものか、最大限自然な形態に近いものを摂るのが原則です。新鮮な季節の果物、新鮮な緑色の葉野菜、発芽類は自然療法の観点からは最善の食物である、とされています。

食事療法は大まかに次の3タイプに分類されます。
 
1)浄化ダイエット
液体レモン、柑橘系ジュース、未成熟ココナッツ水、野菜スープ、バター・ミルク、カモジグサ・ジュースなど。

2)鎮静的ダイエット
フルーツ、サラダ、茹で/蒸し野菜、発芽類、野菜チャトニーなど。

3)発展的ダイエット
全粒小麦粉、未精白米、豆類、発芽類、ヨーグルトなどなど。
   
これらのダイエットは、体内を浄化し、健康を増進、病気への免疫を高めるのを助けます。そのために食物の適切な組み合わせが重要になります。
      
食物はアルカリ性中心で、80%アルカリ性・20%酸性であることが推奨されます。バランスの取れた食生活は、健康を求める人には必ず考慮される必要があるものです。 

3-2.絶食療法
 
食事療法は食物を薬として扱うものですが、一時的に食物を摂ることを中断する絶食療法も自然療法の重要な手法です。
  
絶食の目的は、消化器系全体に休息を与えることです。絶食中には、食物を消化することに使われている生命エネルギーが体内に蓄積している病因物質を排泄する過程に従事します。

絶食は健康管理への自然な方法ですが、精神的な準備を前提条件にします。精神的な準備があれば、誰でも安全に1・2日間の絶食を実行することが出来ます。
  
しかし、長期間の絶食は経験を積んだ自然療法医の監督下で行なう必要があるため、専門施設に滞在して実行することになります。

実際には自然療法では、完全な絶食よりも、フルーツ・ジュースを使った絶食がよく用いられます。特に数日間ブドウ・ジュースだけを摂取するブドウ療法が有名です。

適切に実行されれば、絶食は心身の異状状態を取り除くための素晴らしい治療法になります。消化不良、便秘、ガス、消化器系疾患、気管支喘息、肥満、高血圧、痛風などの疾患を治療する場合に処方されますし、健康な人の健康維持・促進にも定期的な絶食が推奨されます。

3-3.泥療法

泥療法は自然界の5元素のうち、「土」の元素を利用するものです。

泥療法で用いられる土は地表から3-4フィート(約1メーター)の深さから採集された清浄なもので、泥の中に石の断片や化学肥料などの汚染物が決して含まれないことが条件になります。

泥療法は簡単でありながら、非常に効果的であることが知られています。泥療法は身体を冷すことに利用され、また泥は体内の有毒物質を希釈して吸収、最終的に、身体からそれらを取り除くきます。

泥パックと泥風呂は泥療法の主な手法で、便秘、緊張性の頭痛、高血圧、皮膚病などの病気の改善に泥療法はよく成功します。また、頭痛と高血圧の症状があるときは、泥パックは額にも当てられるます。「マハートマ・ガンディー」は便秘を解消するために泥パックを利用していた、と伝えられています。
  
3-4.水療法
 
水療法は自然界の5元素のうち、「水」の元素が利用されます。

泥のように、水は古代から有効な治療方法として用いられています。清潔で、新鮮で冷たい水で適切に風呂に入るのは、素晴らしい水療法の手法です。入浴は皮膚のすべての毛穴を開き、軽さと新鮮さを身体に呼び起こし、身体のすべてのシステムと筋肉が活性し、血液の循環を向上させます。
 
特定の日時に川や池や滝で沐浴をする古くからのインドの伝統は、実際には自然な形態での水療法とも言えます。
  
水療法の最近の発展形としては、腰浴、浣腸、温冷パック、温脚浴、背中浴、スチーム浴、全身浴、腹部や胸部や他のからだの部位への温冷パックなどがあります。それぞれ異なったタイプの病気の治療や、健康の維持増進にも用いられます。
 
3-5.空気療法
 
空気療法は自然界の5元素のうち、「風」の元素が利用されます。
 
健康に新鮮な空気は不可欠です。自然療法では、ある種の病気に空気風呂を推奨します。新鮮な空気が利用するため、衣服を脱ぐか、または軽い衣服を着て、人里離れた清潔な場所を歩きます。
    
また、「ヨーガ」の「プラーナーヤーマ」も空気療法の一種として使用されます。
    
3-5.マッサージ療法

マッサージも自然療法の手法の1つで、健康維持に不可欠と考えられています。マッサージは血液の循環を向上させ、身体の器官を強化します。

冬季に、全身をマッサージした後に日光浴をすることは健康と生命力を保持することがよく知られています。それはマッサージと日光浴を併合した効果を与え、誰にでも有益な手法です。

病気の状態では特定のマッサージの技術によって、必要な治療的効果を得ることができます。また、マッサージは運動の出来ない人に運動をすることの効果を与えます。

3-6.色彩療法

自然療法では、太陽光線の7つの色には異なった治療的の効果があると考えられています。これらの色は、バイオレット(Violet)、インディゴ(Indigo)、ブルー(Blue)、グリーン(Green)、イエロー(Yellow)、オレンジ(Orange)、レッド(Red)です。
   
異なった病気の予防と治療に、それぞれの色は効果を発揮します。着色されたボトルの中に入れられ、一定時間太陽光線に晒された水やオイルが、異なった症状を扱うのに使用されます。色彩療法の簡単な方法は病気の回復過程を効果的に助ける、と考えられています。
  
3-7.診断法

基本的な病因を知るために、自然療法では患者の日常の過ごし方、食習慣から遺伝要因までを分析します。また、季節の変化などの環境的要因も考慮されます。
     
自然療法では近代医学の診断法も利用されますが、病気の現在の状態を知るために次のような診断法も採用されます。
    
1)虹彩診断
全身の状態は眼球の虹彩の領域に反映しているので、その分析で病気の状態を診断します。

2)顔の診断
顔の物理的な外観は異なった器官への毒素の蓄積を反映しています。顔の各部位を観察することで、からだの器官の病気の状態を診断します。
   
3-8.自然療法の一般的な治療法

泥パック、泥風呂、腰浴、背中浴、全身浴、足浴、スチーム浴、日光浴、温冷パック、湿布パック、胸部パック、腹部パック、膝パック、浣腸。

4.自然療法に良く反応する疾患
    
『CCRYN』の助成プロジェクトとして、自然療法により治療が可能な疾患の調査研究が実施されています。

現在までに、以下の病気は自然療法の治療に良く反応することが認知されています。

喘息(アレルギー、気管支)、アメーバ症、貧血、不安神経症、アレルギー性の皮膚病、頸部脊椎症、慢性の非治療性かいよう、大腸炎、肝臓の肝硬変、便秘、下痢、赤痢、糖尿病、湿疹、顔面筋麻痺、腹の張り、胃炎、痛風、半身不随、高血圧、低血圧、胃酸過多、黄疸、白帯下、ハンセン病、肥満、変形性関節症、骨関節炎、小児麻痺、十二指腸潰瘍、乾癬、疥癬、座骨神経痛、脾腫、巨脾症、リウマチ様関節炎、心身症。

5.「ヨーガ・セラピー/療法」
   
「ヨーガ」を医療へ応用する「ヨーガ・セラピー/療法」の開発研究も『CCRYN』の管轄です。

しかし、「ヨーガ・セラピー/療法」自体の歴史が浅く、他の「インド医学」に比べて説得力のあるだけの伝統的・科学的リソースの蓄積が不足しており、今後の課題となっています。

特に、「ヨーガ・セラピー/療法」にはスタンダード化された技法が存在していないことが、科学的な調査研究を進めて行く上での最大の障害になっており、早急に解決すべき課題とされています。

5-1.「ヨーガ・セラピー/療法」の科学的研究

インドでは、次のような研究機関で組織的な「ヨーガ」の生理的的研究や臨床研究が行なわれてます。
   
・「Difence Institute of Physiology and Allied Science(DIPAS)」
 (国防生理関連科学研究所)
・「All India Institute of Medical Science(AllMS)」
 (全インド医学研究所)
・「National Institute of Mental Health and Neuro Science(NIMHANS)」
 (国立精神衛生神経科学研究所)
・「Vivekananda Yoga Research Foundation(VYASA)」
 (ヴィヴェーカーナンダ・ヨーガ研究財団)
・ Kaivalyadhama Yoga Institute(KDHAM)」
 (カイヴァリヤダーマ研究所)
  
「カイヴァリヤダーマ」で行なわれた研究では、経験を積んだ「ヨーギー」が自主的に新陳代謝を低下させ、心拍数を減少させることで、地下の気密室に長時間留まることを可能にする生理的能力を獲得していることが証明されました。
        
このような研究は、長期間に渡る「ヨーガ」の実習が、自律神経系への随意調節の促進を支援することを示しています。
  
一般に、6カ月間の「ヨーガ」の実習は、副交感神経の活動の増進させ、ストレス状況下における自律神経バランスの安定性を提供し、相対的な代謝昂進状態を作り出し、温度調節機能の効率を高めます。

また、身体の柔軟性や準最大限度のレベルでの作業効率、環境ストレスへの適応、認識機能の向上、集中力、記憶力、学習能力、注意力などを向上させることが確認されています。
    
また、いくつかの選択された「ヨーガ」の技法の実習によって、本態性高血圧症をコントロールする潜在的可能性と、その基礎をなす生理的なメカニズムが解明されています。

「ヨーガ」の臨床的研究は気管支炎や喘息などの慢性閉塞性肺疾患の治療の可能性を示しています。また、「ヨーガ」による糖尿病、腰痛、ストレスによる心身症の治療の可能性も認知されています。
     
『DIPAS』で行われた冠動脈疾患からの復帰に関する研究では、ラージャ・ヨーガ瞑想法、低脂肪高繊維性の食事、および有酸素運動を含んだライフ・スタイル介入によるリスク・マネージメントに関して、かなり楽観的な結果がもたらされています。
  
5-2.ヨーガに良く反応する疾患

現在までに、以下の病気が「ヨーガ・セラピー/療法」に良く反応することが『CCRYN』で認知されています。
 
アメーバ症、不安神経症、関節炎、アレルギー性の皮膚病、貧血、腰痛、気管支喘息、便秘、頸部脊椎症、鬱病、糖尿病、てんかん、腹の張り、胃炎、半身不随、高血圧、肥満、十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、不眠症、姿勢異常、気道感染症、座骨神経痛。

公的に認知されている「ヨーガ・セラピー/療法」の有効範囲は、意外に限定されているものです。当然ですが、ガンやエイズは対象に含まれていません。

客観的に見て、「ヨーガ」を「万病を治す万能療法」のように見るのは無理がある、と言うことです。
      
また、インドで自然療法の範疇内で扱われている「ヨーガ・セラピー/療法」も「自然に病気を消滅させる」というアプローチを取りますので、それを可能にする環境を提供する患者参加型の医療施設への滞在が前提となります。