2008年5月16日金曜日

ヨーガと自然療法(続き)

「ヨーガと自然療法」

どんなに優れていて、国民みんなに役立つものであっても、一般社会に正当に認知され、健全で永続的な社会貢献をして行くためには、政府による法的な保護と規制が必要です。


現在のインド中央政府厚生省の医療政策では、「ヨーガ」を病気の治療に応用する場合は、「自然療法(Naturopathy)」の範疇で取り扱われることが基本方針となっています。
         

自然療法は、医薬品や高度な医療技術を一切用いずに、患者さん個人の自己治癒力に依存して病気を治癒させる医療体系です。

そして、自己治癒力を発現させる手段のひとつとして、「ヨーガ」も自然療法の治療体系に統合されています。
    
また、自然療法では「自然に病気が消滅する」というアプローチを取りますので、病気を解消し健康を回復するためには、患者参加型の専門施設に中・長期間滞在し、専門医の指導を受けながら自己治療活動に専念することが前提条件となります。

    
インドでは自然療法のアシュラムや専門病院が多数存在しています。また、自然療法医(Bachelor Degree of Naturopathy & Yogic Science/BNYS)が5年半の医学教育のレベルで養成されています。

「ヨーガ・セラピー/療法」は単独では成立しない、というのはインドの「ヨーガ」のプロの間での「常識」です。その理由はインドの現場を見れば良く分ります。

  
プネー郊外の「二サルゴプチャール・アシュラム」

今回はインドの自然療法の専門施設の事例として、プネー郊外のウルリカンチャンにある『二サルゴプチャール・アシュラム(Nisargopuchar Ashram)』を取り上げて見ます。
http://www.naturecureashram.com/


プネーから東に30キロの距離のウルリカンチャンという町にある『二サルゴプチャール・アシュラム』は、近代インド建国の父であり、またインドにおける近代自然療法の父でもある「マハートマ・ガンディー(1869−1948)」によって1946年4月に設立された、インドで初めての自然療法専門の滞在型医療施設です。 

わたしたちは1993年にこの『二サルゴプチャール・アシュラム』に2ヶ月間滞在し、自然療法の研修を受けたことがあります。

           
現在、年間6000人が自然療法の臨床指導を受けるためにアシュラムを訪れています。アシュラムのキャンパスは150ー200人程度収容可能です。


滞在費は非常にリーズナブルで、ふつうの庶民でもアシュラムでの療養が可能なレベルです。
     
一般に、インドではアーユルヴェーダは「高額医療」で、それなりの裕福層でないとアーユルヴェーダの専門的な「パンチャ・カルマ療法」は受けられませんが、自然療法はコストが掛らない医療なのです。
                        

自然療法の実践者であり臨床家でもあり、健康についての独自の思想とこだわりを持っていた、というのは「マハートマ・ガンディー」という偉大な人物のもうひとつの側面です。
 
農村部にコストの掛からない医療として自然療法を普及させる、というのは「マハートマ・ガンディー」の独立インド建国のビジョンのひとつでした(そのビジョンは独立後のインド共和国の医療政策に継承されています)。

   
1946年3月にプネーを訪れた「マハートマ・ガンディー」は、プネーから30キロ離れたウルリカンチャン村を選び、そこにパイロット・プロジェクトとして自然療法アシュラムを設立することに決めました。

「マハートマ・ガンディー」はウルリカンチャンに8日間滞在、近郊の村々から集まった数百名の患者に、自ら自然療法の臨床の指導をします。そして、その後その自然療法アシュラムの運営を、当時の弟子のひとりであった若き「マニバイ・デサイ」氏に託します。
         

「マニバイ・デサイ」氏

「マハートマ・ガンディー」の薫陶を受け、生涯を「農村の生活向上」に捧げる決意をしていた「マニバイ・デサイ(Manibhai Desai/1920−1993)」氏は、後に このアシュラムから1967年に『BAIF(Bharat Agricultural Industry Foundation/インド農産業財団)』という農村開発系のNGO団体を発足させます。
http://www.baif.org.in/aspx_pages/index.asp


『BAIF』はインドのみならず、世界的に見ても非常に成功しているNGO団体のひとつです。マハーラーシュトラ州を中心に西インド全域で活動しています。


『BAIF』はガンディー思想に基づきながらも積極的に科学技術も導入、主に最貧民層の農民を対象に、現地で利用可能な農業資源を活用した生産性・自立性の向上や、現金収入を得る商品作物の栽培指導によって、農村部での生活レベルの向上を図る活動を行なっています。

   
同時に、農村部の公衆衛生面の向上、自然療法に基づいた予防医学の指導、自然療法のクリニックの設立などの医療活動も行なわれています。

     
それらの貢献によって、『BAIF』の創立者の「マニバイ・デサイ」氏は1982年に「アジアのノーベル賞」と言われている「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞しています。 
   

「マグサイサイ賞」はフィリッピンの元大統領「ラモン・マグサイサイ」氏を記念して1958年に設立された「ラモン・マグサイサイ賞財団」が、人種・信条・性別・国籍を問わず、それぞれの分野で傑出した業績を達成したり、人々の生活向上に絶大な貢献のあった人物や団体に毎年授与される賞です。
http://www.rmaf.org.ph/

  
アジアの国々では「ラモン・マグサイサイ賞」の受賞者は大きな尊敬を集めています。わたしたちの『タイ・ヨーガ研究所』が所属しているバンコクのMCB財団の創立者の「プラヴェーシュ・ヴァシ」博士(医師)も、マヒドン大学医学部教授時代に、タイの農村部の公衆衛生・医療を向上させた貢献によって、「ラモン・マグサイサイ賞(1981年)」を受賞されています。
           
現ディレクターの「ラヴィンドラ・二サル」医師(Dr.R.V.Nisal)

 
現在の『二サルゴプチャール・アシュラム』のディレクターは「ラヴィンドラ・二サル(Dr.R.V.Nisal/1950−)」医師です。
http://www.naturecureashram.com/HTML/DrNisal.HTM


プネー出身で、西洋医学とアーユルヴェーダの両方の医師免許を持ちながら、現在は自然療法の臨床医として『二サルゴプチャール・アシュラム』のディレクターを勤めています。

当然ガンディー主義者で、プネー大学医学部卒業後『BAIF』に参加、奥様も『BAIF』のスタッフであるソシアル・ワーカーです。
       
自然療法では、「もし、患者さんの症状が改善・完治したら、それは患者さん本人の自然治癒力が働いた結果で別に医師の功績ではない」、また、患者さんの症状が改善しない場合も「医師側に責任はない」という、完全に患者中心のアプローチを取ります。
 

自然療法医の仕事は、自然治癒力が働くような環境と条件作りを補助することです。医師は患者さんに過剰な干渉はしません。患者さんの側に「自分の病気は自分で治す」という態度が要請されます。

その為、自然療法で治癒した場合、病気が消滅するだけでなく、自分自身への自信の回復、セルフ・コントロールの価値の認識、健康的な生活を送るための自己責任の確立、といった、人生に肯定的な「副作用」があります。

しかし、自然療法医は医師自身が自然療法が理想とする価値観やライフ・スタイルを実践している「お手本」であることが前提とされるため、意外にむつかしい職業です。
    
医師自身の「人格」が伴わないと患者さんへの説得力が生まれないため、ある意味で、他の医学の医師よりたいへんです。その分、経験を積んだベテランの自然療法医のモラルは高く、インドでは非常に尊敬されます。

    
二サル医師は32年に及ぶ臨床経験があり、今は自然療法医として円熟期です。非常に円満で包容力のある人物で、自然と尊敬を集めるようなオーラがあります。インドの伝統的な価値観やライフスタイルと近代的な合理性の調和が良く体現されている「人格」の例、と思われます。
          
昨年2007年1月と今年2008年5月のタイ組の「スタディ・ツアー」では『二サルゴプチャール・アシュラム』で3日間のセミナーが組まれましたが、例外無く、タイ組のメンバーは二サル医師のファンになります。

          
また、2005年にシーナカリン・ヴィロード大学付属中高校の教員であるうちのタイのメンバーが、夏休みを利用してアシュラムに6週間滞在したのですが、中年に差し掛かった自分の健康問題を完全に解消したばかりでなく、見違えるようにフレッシュに若返ってバンコクに帰って来て、皆を驚かせたことがあります。
    
 (講義中のディレクターの二サル医師)

『二サルゴプチャール・アシュラム』のキャンパス内には、そこに滞在するだけで体内の「浄化効果」や「自然治癒力」が発動するような「磁場」があるように思えます。

『二サルゴプチャール・アシュラム』は、インドで、実にインドらしい上質なインド体験が出来る場所のひとつであることは、間違いないでしょう。
       
また、インドで「ヨーガ」を学ぶに場合は、現在自然療法は必修科目になっていますので、「ヨーガ」に興味のあるひと、「ヨーガ」に関わっているひとは、ウルリカンチャンを訪ねてみることが有益に思われます。
           
以下は、『二サルゴプチャール・アシュラム』の公式パンフレットの内容です。
           

1)自然療法:健康的な生活の技術
   
人間は宇宙の縮図です。自己を宇宙の中に視覚化し、かつ、宇宙を自己の中に視覚化出来ることが、人間の最も進化した意識の状態と考えられます。
   
その意識の状態では、自己は普遍的な精神原理である「永遠、知識、最高の幸福(sat/cit/ananda)」の三位一体と同一視されるでしょう。
      
からだとこころの健康に留意することは、人類の宗教活動の基盤も構成しています。人間はからだとこころと精神の集合体であり、完全な健康とは、身体的・心理的・精神的な健全さに到達することを意味します。

わたしたちは「自然の法則」に従うことで、からだの健康を得ます。また、正しい行いの規則に従うことで、強いこころが養成されます。
   
そして、哲学的な生活態度を養い、瞑想とヨーガを実習することで、精神的な健康に到達します。
    
「自然の法則」を観照することは、自分の人生全体に大きな変容をもたらす経験です。その経験は人類に何千年間もの間集積されて来ているものです。人類の進化のプロセス自体が、自然療法の全体論的なアプローチの有効性を証明している、と言えるでしょう。
   
2)二サルゴプチャール・アシュラム
    
近代インド建国の父である「マハートマ・ガンジー」は自然療法の哲学の熱烈な信奉者であり、臨床家でもありました。

ガンディー氏は南アフリカに滞在中に、自然療法の驚くべき効果を体験し、1946年3月にウルリカンチャンに『二サルゴプチャール・アシュラム』を設立したのです。
    
ガンディー氏は、個人的な衛生や、家庭内や公共の場の衛生状態が厳密に守られて、食事や運動とこころの率直さに十分な注意が払われれば、われわれが病気になるのは不可能である、と信じていました。
      
ガンディー思想に従う精神的指導者の「バルコバ・バーヴェ」氏や、ガンディー思想の実践者で社会改革者であった「マニバイ・デサイ」氏の指導のもとで、アシュラムは自然療法の普及と地域保健や公衆衛生の向上に顕著な貢献を成し遂げて来ました。
   
現在、アシュラムは献身的な自然療法医のチームにより専門的に運営されています。アシュラムの目的は、特に農村地域での予防医学的な自然療法を促進することと、一般の人々が健全な生活を送るための教育指導を提供することです。
               
3)自然療法の特性
  
現在世界には多くの種類の医療・診断システムがあります。それぞれの療法はそれぞれが対象とする病気の治療に妥当性があります。
  
自然療法はからだとこころと精神の間に調和がない場合には、健康的な生活を享受できない、と信じています。自然療法は人間の弱点と病気の根本的な原因は「自然の法則」との不統合によるもの、と考えています。
    
病気とは、からだが体内毒素を体外に排出しようとする試みに他なりません。自ら規律があり、偏りの無い、倫理的な家庭・社会生活を送ることこそが人間の自然な営みであり、そのまま病気の予防と治療になるものなのです。
           
4)ヨーガの重要性
 
ヨーガの哲学を理解することは、インドの自然療法の重要な側面です。ヨーガは特定の宗教に制約されていません。ヨーガは瞑想と思索を追求する普遍的な活動です。
   
ヨーガによる精神的な探求はアーサナやメディテーション、オーム・カーラの読誦などの組み合わせで構成され、限りない至福の領域へと導くものです。
       
個人が至福な経験をするときには、カーストや宗教による違いや、個人的な願望充足への内面の渇望が消失しています。
    
メディテーションには安定した姿勢が必要です。それはアーサナとして知られているものです。
   
アシュラムでは年齢層によるニーズによって、別々のヨーガのセッションが用意されています。また、高血圧、冠状動脈性心臓病、関節炎、腰痛、消化器系・呼吸器系の疾患を持つ人々を対象とした特別なヨーガのセッションも組まれています。 
    
5)宿泊施設
 
アシュラム内の宿泊施設には4つのタイプがあります。一般的なドミトリーと、シングル/ダブルの部屋とコテッジです。
           
滞在費は治療代を含めて1日75ルピーから500ルピーの範囲です(マッサージと食費は別です)。 

医師の許可がない限り、一般客や付添人のアシュラム内の滞在は許可されていません。マットレス、シーツ、毛布、枕、蚊帳はアシュラムから提供されます。
      
6)自然療法で治療される疾患
    
他の医療体系では限界がある慢性の機能的疾患の治癒を、自然療法は約束します。
   
リューマチ、心身症、喘息、消化不良、高血圧、冠状動脈性心臓病、糖尿病、アトピー性皮膚炎・疥癬のような皮膚病、肥満、および様々な婦人科系の疾患は、シンプルな手順と食事コントロールで非常に良く管理されます。
     
7)自然療法の対象外
  
若年性インシュリン依存糖尿病、甲状腺機能昂進症・低下症、慢性腎不全、運動ニューロン疾患、筋萎縮症、多発性硬化症、貧血症、麻痺、パーキンソン病、尋常性天疱瘡、肝硬変、遺伝的・先天的な不具、精神分裂症、深刻な鬱病、進行性のガン等。
     
以上の疾患の場合でも、家庭で実践出来る適切で自然な食事法、ヨーガやエクササイズの指導をアシュラムで受けることが出来ます。
   
また、自然療法のアシュラムでは感染性の結核やハンセン氏病を扱うことは出来ません。
      
8)場所/ウルリカンチャンへの行き方

ウルリカンチャンはプネー・ソラプール国道9号線に位置する町で、プネーの東30キロに位置しています。
  
ネルー・スタジアム(スワラゲート)バス・ターミナルから40分毎に午前6時から午後9時30分まで市営バスが運航しています。
   
列車はプネー駅からウルリカンチャン駅に向う便は、
04.15、07.10、08.10、09.15、13.20、16.40、7.35、18.40、20.05、22.45、23.10。

ウルリカンチャン駅からプネー駅に向う便は、
03.20、04.30、05.40、07.05、07.25、08.40、10.10、13.10、16.35、18.00、9.15。
  
アシュラムは駅とバス・スタンドからの歩ける距離に位置しています。

プネー空港にはムンバイ、ニューデリー、アーメダバード、ナグプール、バンガロール、ハイデラバード、およびチェンナイなどのインドの主要都市との連絡便が就航しています。

また高速バスがムンバイ空港・プネー駅間で運行されています。高速道路でムンバイ・プネー間は3時間程度で結ばれています。
         
9)アシュラムでの規則
  
1.患者は、アシュラムの尊厳を維持するための規則を順守し、運営側に協力的であること、また、アシュラム内ではインドの文化的常識と医師からの指導に従って行動することが期待されています。
     
2.アシュラム内では、喫煙、紅茶、コーヒー、アルコール等の依存性のある嗜好品は許可されていません。

3.アシュラム内での娯楽としては、ラジオやテープは部屋で低ボリュームで隣人に迷惑を掛けない範囲で許されています。また、公共のテレビが教育的な目的とニュース視聴用に講義ホールに設置されています。

4.患者は自分の貴重品とお金の管理に責任を持って下さい。

5.アシュラム内にはペットの持ち込みは禁止です。

6.患者は医師によって与えられた指示に従うことが期待されています。任意に食事を変えること、またプネーへの頻繁な外出などは全体の治療計画を乱します。
 
7.自宅に帰宅するには、事前に医師への通知が必要です。
 
8.午後1時から2時までは沈黙を守る時間です。同様に、午後9時30分から翌朝午前5時までも沈黙の時間です。

9.ヨーガ・セッションは午前5時15分から6時15分が女性と高齢者対象、6時15分から7時15分が若年者対象、午前6時から心臓・呼吸器系の疾患がある人のためのセッションがあります。また、講義と夕べの祈りへの参加が不可欠です。
  
10.自然療法の効果を経験するには2週間から3週間の滞在が必要です。
     
10)ガンジー主義の考え

「私は、個人的、家庭的、公共的な衛生状態が厳密に守られて、食事と運動について十分な注意が払われるなら、病気や疾患が起こるはずがない、と主張したい。内面と外面の清浄さのあるところでは、病気は不可能になる。」
(マハートマ・ガンディー)

11)アシュラムの日課

 5:00     起床
 5:15 − 6:15 ヨーガ 1stセッション(プレラナ・マンディール)
 6:15 − 7:15 ヨーガ 2ndセッション(プレラナ・マンディール)
 6:00 − 7:00 ヨーガ 2ndセッション(スムルティ・マンディール)
 7:30 − 8:00 肥満のためのヨーガ
 7:00 − 8:30 ハーブ・ティーとジュース
 8:30 − 9:00 日光浴、泥療法
 9:00 − 9:30 アムラ、ハルディ、ウィートグラス草のジュース
 9:00 −11:00 水療法、磁石療法
10:30 −12:30 昼食
12:30 − 1:00 額の上の泥パック
 1:00 − 2:00 沈黙の時間
 2:15 − 2:45 プラーナーヤーマ 特定のヨーガ・セッション
 2:15 − 4:30 指圧療法/ニューロ・セラピー(Neurotherapy)
 3:00 − 4:15 ハーブ・ティー/ジュース/図書館
 4:15 − 5:00 自然療法、ヨーガ、ホリスティック・ヘルスに関する講義
 5:00 − 5:15 新来者のための歓迎ミーティング
 5:30 − 6:30 夕食
 6:30 − 7:00 夕方の散歩/自由時間
 7:15 − 8:00 夕べの祈り
 8:00 − 9:00 自習(Swadhyaya)/思索
 9:30 以降  沈黙


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