『二サルゴプチャール・アシュラム』は近代インド建国の父であり、インドでの近代自然療法の父でもある「マハートマ・ガンディー(1869−1948)」が1946年に設立した、インドで初めての自然療法の滞在型医療施設です。現在、年間6000人が自然療法の指導を受けるためにアシュラムを訪れます。
自然療法は医薬品や高度な医療技術を一切用いずに、個人の自己治癒力を活用して病気を治癒させる医療体系です。「マハートマ・ガンディー」は自然療法の実践者・臨床家でもあり、健康についても独自の思想を持っていた人物でした。
「建国の父」が自然療法家でもあったことから、インド政府厚生省の医療政策では自然療法が積極的に推進されています。「ヨーガ」も自己治癒力を発現させる手段のひとつとして、自然療法に統合されています。
現在インドでは、5年半の医学教育のレベルで専門の自然療法医(Bachelor Degree of Naturopathy & Yogic Science/BNYS)が養成されています。
「ヨーガ」の医療への応用を考える場合には、インドの自然療法の背景について知っていること有利になります。それが、このシリーズの意図であり、目的でもあります。わたしたちも自然療法についての研究を続けています。
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1)自然療法のアシュラムに滞在
4月の第4週目、プネー郊外のウルリカンチャンに「マハートマ・ガンジー」が1946年に設立した「自然療法」の専門施設「二サルゴプチャール・アシュラム」に5泊6日の日程で滞在しました。
わたしたちにとっては、1993年以来、15年振りの泊まり込みでの滞在になりました。5月にうちのバンコクのオフィスである『タイ・ヨーガ研究所』主催の「スタディ・ツアー」が企画されていて、ウルリカンチャンにも3泊4日で滞在する予定でした。その下準備と自分たちの体調管理を兼ねの滞在でした。
2)1日目:アシュラムに着いて
ウルリカンチャンはプネー駅から各駅停車で東方面に40分行ったところにあります。「ヨーガ」の研究所があるロナウラとは反対方向に位置します。プネー駅から各駅停車で1時間半かかるロナウラの半分くらいの距離です。
4月21日(月)の朝9時20分発の電車に乗り(実際発車した時刻は10時半でほぼ1時間遅れでしたが)、昼前にはアシュラムに到着、オフィスで受付の手続きを済ませ、簡単な身体測定と健康診断の後、食事のクーポン券を買って12時前に食堂には入りました。
最近のアシュラムの食事は1日2回で、午前は10時半から12時まで、午後は5時半から6時半の時間帯になっていることが後で解りました。
昼食を食べ部屋でひと休み。午後3時半に指定されたドクター(自然療法医)の診察があるため、オフィスの隣にある診察室の担当のドクターの部屋の前で待ちました。
こちらのセンターの主任医師のニサル先生には、長年わたしたちも懇意にして頂いています。ロナウラでの「ヨーガ」のカンファランスでは必ず会いますし、わたしたちも今までにタイや日本からのビジターを、何名もアシュラムに紹介しています。
主人はニサル先生に、わたしは女医のアーリア先生が担当、このアーリア先生も1993年にわたしたちが参加した2ヶ月のコースを担当していた先生の奥様で、面識があります(ご夫婦で自然療法医です)。
順番が来て部屋に入り、簡単な問診を受けて、脈拍や血圧を測った後、アシュラム滞在中の食事のアドバイスと、自然療法のスケジュールを立ててもらい、翌日からトリートメントをスタートすることになりました。
わたしたち2人は至って健康体なのですが、一つだけ問題と言えば、「アンダーウエイト」、ちょっと体重が軽すぎるのです。4月のインドは夏の真っ盛りで、いわゆる「夏やせ」で2人ともさらに通常より少な目の体重でした。
1日目はのんびりと過ごし、夕方の食事が終わって、涼しくなってからは、他の滞在者のみなさんと同じようにキャンパス内の公園を歩いたり、近くの畑の方へ行って牛を見たりしながら田園風景の中を歩いたりと、トリートメント(?)の日課がスタートしました。
3)2日目:トリートメント始まる
朝5時
滞在2日目、アシュラムの日課としては朝5時15分から「ヨーガ・クラス」があるのですが、それはパスして部屋で瞑想。6時過ぎ、涼しいうちに外を散歩、そして、7時過ぎに女性のトリートメント・ルームへ行きました。
午前7時
しばらく「オイル・マッサージ」の順番を待っていましたが、様子がわからず、結局最初に「エネマ」を受けて、お腹をすっきり、その後屋上で「泥パック」。
大半のみなさんは寝ころんでお腹の上だけに「泥」を置いていましたが、ウエイト・オーバーの人なのか、お相撲さん並の体型の人たちは、囲われた中で全身に「泥」を塗られていました。
「泥パック」が終わり、わたしを担当するマッサージのおばさんがやって来て、「オイル・マッサージ」を受けることになりました。その後、「スチーム・バス」へ行きましたが、沢山の人が待っているので順番待ちの番号札をもらって食堂へ行き、朝の人参ジュースを飲みました。
それから「スチーム・バス」に戻り、少し待って「スチーム・バス」に3・4分入り、水シャワーを浴びて部屋に戻りました。
もう一つ、午前中に「腰湯」を処方されていましたが、気温も上がって来てとても湯に浸かる気分ではないので、「腰湯」はパスしました。
午前11時
11時に再び食堂へ行き、わたしたちはメニューの全食品を貰い食べました。メニューは、小麦のチャパティー、雑穀のチャパティー、インド野菜のおかず、野菜スープ、サラダ(3種類の野菜を細かく刻んだもの)、コリアンダーのチャツネ(ペースト)、そしてバター・ミルクです。
ここの料理には「塩」は使われません。一応カウンターに塩は置いてあるので、各自必要な人は取って行きます。わたしは少々低血圧気味なので、塩を取るように先生に言われました。
塩抜きの他に油も控えめ、スパイスも控えめ、もちろんチリ(唐辛子)は使われてなく、日本人のわたしたちにとっても「味なし」の食事です。
とにかく食べられるだけ食べた、という感じでお腹が一杯になり、折からの暑さもあって、身体がだるくなり、部屋に戻って休みました。
午後3時
午後3時、ジュースの時間なのでまた食堂へ。なにやら緑の液体と、薄オレンジ色があったので、オレンジ色の方を注文しました。それは柑橘類の一種でモーザンビーと言うオレンジです。そのジュースはとても美味しいです!
緑のジュースはほうれん草。その他にもウィート・グラス(青汁)、白カボチャ(大根くらいの瓜科の野菜)などのジュースが日替わりで出ます。
午後4時
外が涼しくなった4時過ぎ、夕方の散歩がてらアシュラムの門近くに並んでいるフルーツ屋さんを見に行きました。食堂でもフルーツが出ますが、追加のフルーツを処方されているひとはここで買います。フルーツを使った断食は自然療法の定番です。
そこで、シーズンの終わりにかかっているブドウを1キログラム買いました。まだまだ味が締まっていて、とても美味しかったです。
2月から3月がブドウのシーズンですが、マハーラーシュトラ州は良質のブドウの産地でもあり、たくさん採れます。その時期アシュラムも「ブドウ断食」のシーズンとなります。ブドウを使った断食は効果が高く、ラクでおいしいので、とても人気があります。
午後6時
夕方6時、食堂で2回目の食事を取りました。夜?はキチェリといって、ご飯と豆を合わせて炊いた軟らかい小豆ご飯風のものと、小麦のチャパティ、インド野菜おかず、野菜スープ、サラダ、チャツネと、やはりほぼ全品を貰い食べました。
そして食後は散歩です。日も落ちて涼しくなるのですが、ウルリカンチャンはあまり風が吹かないので、日中に暖まった空気がそのままただよっている!といった感じで暑く感じるんですね。プネーのわが家の方は、夕方必ず風が吹いて来るので、涼しくなった!と感じるのですが。
その上、部屋の中は日中の暑さが籠もり、猛暑が続いています!!、夜、寝ていても「布団が暑い!」と感じながら、寝返りを打っていたのを覚えています。
4)3日目:ヨーガのクラスに出る
朝5時
滞在3日目。今朝は5時15分から始まるヨーガのクラスに参加しました。すでにホールは一杯の人でしたが、何とか横になるスペースを確保しました。
言葉はヒンディー語で、ケララ州の自然療法の医科大学から研修に来ている元気の良い女子学生さんが指導に当っていました。
朝の「ヨーガ・クラス」は3つあるのですが、この午前5時15分のクラスは一般向けのクラスで、誰でもが参加出来るマイルドな内容でした。
しかし、静止する「アーサナ」はあまりなく、ほとんどは体操をゆっくりやっている、と言う感じの指導法です。「アーサナ」と言うより運動不足の人対象の健康体操クラスです。
また、「プラーナーヤーマ」のようなことも少しやりましたが、これは今、インドではやっているワークショプで行われている「エンターテイメント系」のものでした。最近インドでも「ヨーガ」にいろいろなものが混ざって来て、オリジナルな伝統的な形が崩れて来ているのを感じます。
午前6時からは2つの「アーサナ・クラス」があり、1つは太り気味のひと対象、若いお嬢さん達向きの激しい動きの体操クラスです。もう1つは、年配者を対象とした、本当にスローでマイルドな動きのクラスです。
朝の「ヨーガ・クラス」の後は、まだ涼しい朝の空気の中散歩をしました。
午前7時
そして、7時過ぎ、今日からわたしのマッサージ担当はケララ州の自然療法医科大学から来ている研修学生のSさんになりました。こちらのアシュラムに彼女たちの医科大学から、学生さんが交代で2ヶ月の研修に来るそうです。
南インド人の彼女とは英語で良好なコミュニケーションが取れます。また、その前日まで3週間滞在していた日本人の「Y.K.」さんが彼女のマッサージを受けていて、「とても上手ですよ!」というお勧めでした。わたしも彼女に自分の部屋に来てもらい、マッサージをしてもらうことにしました。
ココナツ・オイルを使い、足から全身(顔は除いて)まで念入りにマッサージ。とても気持よかったです。
この後、2日目と同様に「エネマ」をして、「泥パック」。そして一度朝のジュースを飲みに食堂に行ってから、「スティーム・バス」に入り、水シャワーを浴びてさっぱりとしました。
午前11時
11時に食堂で食事を取り、暑い部屋の中で休んでいると、小さな「泥パック」が運ばれてきました。これは「パッティー」と言って、長方形の方になっていて、額や目の上に置いて冷やす物です。
折からの暑さでわたしは少し頭痛がしていたので、ドクターに相談行こうと思っていましたが、これはよい物が来た!と思い、早速額にのせて休憩しました。
この頭痛は最初にインドに来た頃にも経験しましたが、「ヒート・ストローク」と言って、軽い熱射病です。日差しが強くなる10時ー11時頃から夕方陽が弱まる頃まで頭痛がして、夜や朝は何でもありません。
当時はロナウラの『カイヴァリヤダーマ研究所』のボレ先生に「ホメオパティー」の薬を処方されたのを覚えています。軽い頭痛などには「ホメオパティー」の薬が良く効きます(余談ですが)。
午後2時半
午後2時半、今日は「腰湯」をやることにしました。どうやら「腰湯」は水でやるようなので、丁度暑いので気持ち良さそうに思いました。
腰湯用のタライに自分で水を入れ、入れながら、やはりあまり冷たいのはどうかな?と思って、少し熱湯も入れました。10分ほど浸かり終わりました。外は相変わらずの猛暑ですが、すっきりした気分になりました。
午後3時
午後3時、今日もモーザンビー・ジュースを飲みました。その後、担当のドクターの検診。
ドクターに今のコンディション、頭痛のことを告げると、「今最高に暑い時期なので、みんな困っています」とのこと。そして、アドバイスとして、「濡れたハンカチを頭に載せるように!」と言われ、早速部屋にいるときも、外を歩くときも、濡れたハンカチを頭の上に載せました。
頭痛の方もこれで改善!意外に簡単なことで問題は解決する!と、この時も思いました。
5)4日目:食事はフルーツだけ
4日目。午前中のトリートメントは、「オイル・マッサージ」の後「エネマ」をして、今日は「スティーム・バス」の代わりに「腰湯」をしました。腰湯のバス・タブはタライに背もたれが付いているような型で、足は外に出します。
昨日午後に水のような温度で入ったせいか、今朝少し足がだるい感じがしたので、今日はもう少し暖かめの温度にして入りました。
午後2時半、今日2回目の「腰湯」をしました。
午後の食事はドクターのアドバイスで、フルーツだけ摂ることにしました。
午前中に買っておいたパパイアを1個食べて、お腹は満足しました。そして、身体も重くならず、この日午後は最高気温の暑さの中でも、比較的爽快に過ごすことが出来ました。
この日、プネーはこの夏の最高気温42度を記録したようです。
6)5日目:身体がリフレッシュ!
5日目。トリートメントは「オイル・マッサージ」と「腰湯」だけにしました。「泥パック」は屋上でやるので、朝とはいえ強い日差しを受けるのを避けるため、やりませんでした。
「エネマ」も本来断食の人が腸内の浄化のためやるものですし、3日続けてやったので、今日はやらなくてもお腹はすっきりしているので止めました。
午後はドクターに面会、明日プネーに帰ることを告げ、もう一度血圧や脈を測りました。少し低めだった血圧も正常に戻り、健康自然食で内臓も快調に働いている、という感じで身体がリフレッシュ!した感じでした。
7)6日目:チェック・アウト
最終日6日目。今朝は少し早めに部屋で「オイル・マッサージ」を受け、トリートメントルームへ行き、「腰湯」をして今回の滞在中のトリートメントを終わりにしました。
そして、日中の気温が上がる前にアシュラムをチェック・アウト、来たときと同じく各駅停車でプネーに帰りました
8)総括と感想
初めて自然療法を受ける「患者」さんとして『ニサルゴプチャール』に滞在しましたが、滞在者の傾向としては、健康だけど太り気味の若い人や、中高年で健康問題のある肥満の人と言った、体重を減らす目的の人が多いようでした。
そして、通常の「病院」と決定的に異なることは、患者さん自身に食事療法や自然療法のトリートメントで良くなりたい、という意欲がなくては、滞在している意味がない、ということです。
実は、主人はここに来た当日、食堂でテーブルの脚の角に足をぶつけて、小指の爪が剥がれてしまうけがをしたのです。それで、足を水に濡らせないため、水を使うトリートメントはほとんど受けれませんでした。
それで、午前中のトリートメントの時間に主人が部屋にいると、一度見回りのおばさんが来て「治療室に行きなさい!」と言われたそうですが、その程度で、特にお医者さんに何かを強制されるようなことはなく、食堂でも処方されたカルテを見せて、自主的に自分で食べるものを選びます。
この点で西洋医学系で治療を受ける患者さんと、自然療法系で自分で病気を治そうとする人との意識の違いが出るようです。それはインドの人たちと言えども同じです。
インドは「マハートマ・ガンディー」の影響で自然療法派の人が多いのですが、もちろん、それが多数派とは言えないですね。
また、自然療法を実践している人たちや自然療法医の先生は、大方の人が痩せています。わたしたちも滞在中、それなりに一生懸命に食べたのですが、最後の日の体重は増えるどころか、少し少なめになっていました。
プネーの自宅に戻ってからも、わが家のメニューが少し変わりました。玄米とムング・ダールのキチェリやシンプルな野菜スープのメニューを毎日加えるようになりました。
「アシュラム」で塩抜き・スパイス抜きの「無味」に慣れると、自然な味が美味しく感じるので、しばらくはそれを続けたくなります。
また、「バター・ミルク」も積極的に摂るようになりました。「バター・ミルク」とはヨーグルトから脂肪分を抜いて水で薄めた飲み物で、インド食では定番のアイテムです。
本当は家でヨーグルトから作ると一番良いのですが、最近はお店でパック入の「バター・ミルク」が売られるようになりました。1993年に初めて自然療法を学んだ頃は、台所の床に座り込んで、目の前の容器に入れたヨーグルトをインド式の撹拌棒でかき回して、のんきにバターミルクを作っていました。
ともかくセンターに滞在している間は、自分の身体の事に、とても注意が向けられます。そして、自然療法で自然と共に過ごすあの身体の爽快感は、とても貴重な体験となります。
インドには、このような患者参加の滞在型の医療施設がいろいろとあります。自然療法はコストがかからないので、滞在費も妥当です。インド政府厚生省の医療政策でも「自然療法(Naturopathy)」は積極的に推進されています。
いわゆる「ヨーガ療法」も「自然療法」の範疇で認知され、「Naturopathy and Yogic Science」として推進されています。単独では「ヨーガ療法」というものは成立しません(日本では誤解があるようですね)。
いずれにしても、いわゆる「代替医療(インドではその言い方はタブーですが)」や「ホリスティック医療」の分野でも、インドは宝庫と言えると思います。
自分自身の健康の維持管理や、病気になったときの心構えや治療へのアプローチについての見聞を広める面でも、インドの「医療事情」はいろいろと役立ってくれるように思います。
インドの「自然療法(ナチュロパティー)」に興味のある方は、ぜひプネー郊外のウルリカンチャンの『ニサルゴプチャール・アシュラム』を訪ねてみられることをお勧めします。
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